聖獣が徘徊する正しい町



聖獣が徘徊する正しい町。
彼を生み出したのは人の知恵を越えた偶然の現象。
計算により作り出せるモノではなかった。

ココでは、彼の伝記の一部を語ろう・・・

彼は車を運転していた。
飛び出してきた猫を轢き殺すも、彼の心は微動たりもしない。
それが、聖獣と呼ばれる数少ない彼である。

彼は日頃、瓦を焼いていた。
高校を卒業し、学校の紹介で就いた仕事だ。
暑さも寒さも、彼には影響しない。
彼を支配するのは『くるみ』、そう、『鋼鉄○使くるみ』だけなのだ。

彼は限定品である、くるみのビデオを大切にしていた。
家に帰り、くるみとコミュニケーションをとる。
その時間が一日のうち数時間あれば、他には何もいらなかった。

あの時も、彼は職場から家へと急いだ。
自分を待っているくるみに早く会いたかったのだ。
彼は部屋へ入り、ドアを閉める意識を強く持つと、
ビデオ収納キャビネットの前で微笑んだ。
彼を至福の時間が包み込む。

カチャッ
再会を前に、彼の弾む心は止まらない。
しかし扉を開けた彼を迎えたのは、
ギッシリ隙間無く詰めていたはずのビデオたちではなく、
つい立となる仲間を無くし、バランスを崩した横たわる2、3本のビデオだった。

「くるみが、いない・・・」

そんなはずはないと、目を凝らしても、
くるみはもう、そこにはいなかったのだ。
「まさか親が・・・いや、もう数年、俺とは最低限の干渉しか持たなかった親だ、
わざわざそんな行動を起こすはずがない。
だとしたら・・・泥棒・・・?」

彼は心の底から怒り、体を震わせた。
彼は、会いたいくるみを失って怒っているのではない。
自分だけしか知らない、この世界を知られ、壊された事に怒っているのだ。

学生時代、友人を作らず、いつも放課後は足早に家に帰り、
テレビゲームをするのが楽しみだった。
周りからはツマラナイ人間だと思われ、自分でもそう認めていた過去、
それを断ち切る光となったのが、くるみなのだ。

しかし、大切な恋人が奪われた事実は、
自分の世界の暴露による恥ずかしい想いが呑み込んでいる。
自分の趣味を、他人に知られてしまった。
自分が愛し、愛された相手より、見栄。
世間から消されていた見栄がくすぶっていたのだ。

彼は動く。まず自分の服装を考えた。
「これではダメだ。しかし、何を選べば良いかわからない・・・」
そして強張りながら、服屋のレジに持っていった紫色のカッターシャツを、彼は毎日着るようになる。
紫の理由は、ただ派手ならなんでも良かったらしい・・・

今まで母親が選んだ服を着ていた彼が、自分で服を選ぶ。
大変な成長を遂げ、彼の心は人の渦が巻く外へ向かった。

次に彼は、携帯電話を購入する。
やはり必要なのはメル友。
彼は雑誌で知ったス〇ビへアクセスする。
慣れない手つきでボタンを押す彼は、
「この子にしよう!」と思わせる女数人にメールを送った。
運良く、その中の一人から返事が届き、初めて誰かとできるメールにワクワクした。

彼が送った文(参考資料)

『僕は東京在住の医学部に通う大学生で、
車はBMW、趣味はスノボと音楽鑑賞かな。
みんなからは、優しくて、キムタク似と言われます。
そんな僕で良ければメル友になりませんか?』

そのようにして始まったメールワークは、
日に日に、彼からくるみを忘れさせる薬となっていった。

携帯を所持してから数ヵ月が経ち、メル友も入れ替わっていったある日、
しつこく「会おう会おう」と言ってくる女とメル友になった。
彼は今まで、写メをネダル相手からは、くるみ相手に培った言葉で切り抜け、
自分の姿を隠してきたが、会えば当然姿がわかる。
彼の体は白人よりも白く、そして細く、顔にはハッキリわかるソバカスがあり、髪はスポーツ刈り。
更に、個々のパーツ全てにおいて「キモイ」と言われる資格がある事を心得ていた。

最初はメールだけで幸せだったが、慣れてくると進展が欲しくなる。
彼は悩んだ。仕事で忙しいと言いながら日にちを伸ばし、とにかく悩んだ。
そして決めた。いや、気づいた。

「会えるはずがない」

彼はその日から、自分が相手に嫌われるように尽くした。
それはメールによく表れている。

『君は知っているか? 伝説の拳 運香拳を。
それは運の道を極めし者が拳にウンコを付けて、相手の肛門の功を突く。
それにより、体内に効を送り、敵は悶絶を回避できないというインドに伝わる秘拳である。
かつては戦争で実際に使われ、その拳を使う者は戦神と恐れられ、 出世ばかりで大変だったという説もある。
最近では、グレ○シー一族や、桜庭○志が密かに研究しているという噂を入手した。
君もしないか?   入会費5万ドル  運香拳研究会   』

このようなメールを相手の返事の内容を無視し、送り続けた。
そのうち、彼からはメル友が一人もいなくなった。
直接シカトをせず、自分が嫌われることで相手を離そうとした彼、
それこそ彼の優しさであろう。

「これで良いんだ」

彼は、自分がどう在るべきかを悟ったのだ。
彼は論理的には語れずとも、自分の在り方を、コンプレックスから学んだ。
そして全てを悟った彼は、愛すべき相手へと向かう。

「くるみは会いたいなんて言わない、僕を困らせない。
くるみがいれば、他には何もいらない」

彼は再びくるみのビデオ(通常版)を購入し、くるみと愛を育んでいった。
(キャビネットにはカギが取り付けられている)

「くるみ、今日はどこへ行こうか?」

クリスマスにはそれ仕様のくるみ、バレンタインにはそれ仕様のくるみ。
実社会と時期を同じくして、その世界でもそれ仕様のモノが発売される。
想像力をふくらませば、それはリアリティー溢れる現実になる。

人は自分の限界を知り、自分のスタイルで生きるべき、
それで最低限の幸せは手に入る。

彼は聖獣となり、人間としての役割を果たしたのであった。



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